深艶
根暗乙女ゲーマーの無意味自堕落私生活。
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2009.05.05 Tue
Finale――Side Tomoe & Mitsugu―――
はい、また突然ですが書きあがったので終幕第二話目。
今度は巴と貢。
本当は巴と彰を先書くはずだったんですが、こっちが先になったので。
深い深い森の中。
木々が鬱蒼と覆い茂るおかげで辺り一面昼間だというのに薄暗い。
時折、鴉か何かだろうか。不気味に鳴く鳥の声だけがこだましている。
まるでそれは、深淵を覗き込んでいるような不安感を生きとし生けるものに与える。
その最奥、誰も立ち入らぬような闇の中にその洋館はひっそりと存在していた。
建物自体がとても古く、闇に溶け込むように沈み込んでいる。
まるで何百年も前からそうであったように、静かに外の世界を拒絶していた。
住んでいるのはこの地方の領主だ。
「…」
ぺらぺらと、本が捲られる。
重い革表紙のそれは、何度も読まれているようで既にボロボロとなっていた。
書かれている文字も古代文字で、もう今となっては読める者も少ない。
目を落としていた青年はふと、ことり、というカップを置く音がしたことで顔を上げた。
「彰(あや)様、俺、ものすごく嫌な予感がしますよ」
彰と呼ばれた彼は、無表情に相手を見る。
「嫌な予感?」
すると、問いかけられた相手、彰の唯一の付き人である青年が嫌そうな顔をして頷く。
名前を貢(みつぐ)といった。
「ええ、物凄く嫌な予感です」
「貢がそんな顔をするなんて珍しいね」
貢は普段滅多なことでは平静さを失わない。
それは彼が根っからの従者一家の出だからであり、そういう教育を受けているからだ。
生まれた時から彼は彰の僕として生きることを定められている。
能面とさえ評されるほど表情一つ変えない彼がこんな顔をする理由は、決まって一つだ。
それを知っているからなのか、ただ単に最初から興味がないのか、問いかけてみたものの彰は他人事のようにうっすらと笑うだけでまたすぐに本に視線を落とす。
「彰様、原因を排除してもいいですかね」
貢も彰の行動には慣れているのか意に介した様子もなく、何故か扉の方を睨んで何かの準備をするように白い手袋を嵌め直す。
「やめておいた方が無難だとは思うけど。君がそうしたいなら、止めはしないよ」
別に僕には関係ないしね、と彰は呟く。
やはりその手は本を捲ることをやめないままだ。
「それならそのまま止めないでくださいね」
貢がそう言い放つと同時に。
バリバリバリ。
何か木目が裂けていくようなけたたましい騒音が部屋中に突如響いた。
「来やがりましたよ」
「貢、口が悪いよ」
「申し訳ございません、俺としたことが」
貢は謝るや否やその音のした方、扉に向かって飛ぶ。
扉は既に貢の視線の先で何か鋭利な刃物によって真っ二つに破壊されていた。
「まったく、どういう教育をしているんでしょうか、あの男は」
愚痴るように呟いて、飛び出した貢は懐に隠していた数本のナイフを視線の先に目掛けて投げた。
シュン、と小気味良い音を立ててそれらは四方へ飛んでいく。
「はっろー☆」
瞬間、この場にはあまりに似つかわしくない明るい声が響き、間髪入れずに何か大きな影が獣のように貢目掛けて飛び込んできた。
キン、と金属同士のぶつかる音が部屋に振動する。
「御機嫌よう、貢サン」
「御機嫌よう、姫様」
まだ尾を引いている金属音に混じり、少女の声が聞こえてくる。
気付けば貢のすぐ顔の近くで、にっこりと微笑んでいる少女の顔があった。
貢は史上最悪の嫌なものに出会ったと言わんばかりに顔を歪ませ、彼女の挨拶にそう返答する。
「今日も凝りもせず元気なご登場ですね」
「あなたは今日も凝りもせず私の彰の腰巾着しているのね。執事風情が」
「私はあなたの彰様の執事ですから、当然いつでもどこでも一緒です」
お互いににっこり笑い合う。
よく見れば彼女はその体つきには不似合いなほど大きな鎌を手にしていた。
見えた残像の影が大きい訳だ、と貢は内心で思う。
「ねぇ、貢。そろそろその座を誰かに譲ってもいいんじゃなくて?」
少女が微笑んだまま手にしていた鎌を大きく振り回す。
ガシャン、と部屋にあったアンティークが一つ、途中で当たって砕けた。
「姫様、あれ、高価なんですよ?後で弁償してくださいね」
貢も負けじと笑顔で質問内容とは違う返答を返す。
と同時に少女目掛けてナイフを一振り放った。
ガキィン、と金属音がまたして、少女がそれを鎌で振り払ったのを視線の端で確認する。
「…」
「…」
二人は蛇の睨み合いでもするかのように、無言で見つめあった。
「…仲、いいよね」
ぼそりとそれまで我関せずと読書に耽っていた彰が呟く。
「あぁら、彰ったら何を言っているのかしら。私が仲良くしたいのはこんな男じゃなくて、彰だというのに」
「ご主人様、それはないんじゃないですかね。俺はこの人が死ぬほど大嫌いです」
彰の呟きはしっかりと二人に聞こえていたらしく、それぞれにそう返された。
「…どっちでもいいけどね」
どうでもいいし、とまた彰は呟いて本を目を落とす。
「ちょっと、貢。あんたがろくでもないから、彰が呆れちゃってるじゃない」
「それを言うなら姫様がいつも同じ登場の仕方しかしないから呆れていらっしゃるのでしょう」
「…」
「…」
ブチ。
何かが切れる音がした。
「ホラ見ろっつってんだろが!あんたがだらしねぇから彰がいつもかわいそうな思いするんじゃない、このゴミが!」
「だらしねぇのはあんたの方だろうが!そんな言葉遣いでよく姫様なんてやってんな!この殺人鬼め!」
膠着した睨みあいがしばらく続いていたが、しかしキレたのは二人同時だったらしい。
一気に豹変した二人の喧嘩は、そのままとてもではないが外で他人に聞かせられるような内容ではない罵倒に変わっていく。
「よくまあその性格で城の連中騙してるよなあ!あんたはよ。城の連中も目腐ってンじゃないのか?」
「あんたほど性根腐ってねぇから安心していいよ?城の子たちは純真なだけだからね」
「おうおう、そうだろうともよ。純真じゃないのはあんただもんなあ!」
「純真じゃないのはあんたもでしょ?てめぇなんざ死に絶えろ!」
「それはこっちの言葉だこのあばずれ女!ズタズタに犯すぞ!?毎回毎回殺人犯しちゃあ、彰様のせいにしやがって!」
「やれるもんならやってみろってんだよ!その前に細切れにして海に流すんだから!」
「よくまあ、そんな口が叩けるな。あんたが人殺す度に彰様が身代わりになって犯人になってやってんだろうが!でなきゃ貴様なんざ、今頃もう姫の座になんかいねぇだろうが!」
「いつ彰のせいにしたいなんて私が言ったってのよ!?そんなの勝手に壮とあんたが契約交わしただけでしょ!?」
「そうだ、あんたのためにあのカテキョのセンセ、とやらも俺とそんな馬鹿馬鹿しい契約結んだんだろうが!」
「だから頼んでないって言ってんのよ!何よ!あの契約は彰のためでもあるのよ!バーカバーカ!」
「頭悪い罵倒する女だな!彰様のためになるのは当たり前だ!でなきゃ誰があんたのためになんか契約結んだりするものか!」
「彰彰ってうるさいわねええええええ!!!!」
もう我慢ならない、と巴が大鎌を力任せに振り回す。
しかし貢も負けてはおらず、それをするりとかわすとナイフを数本、巴の懐へと投げ入れた。
「…うるさいよ、君達」
そこでやっと彰が再び本から視線を戻し、立ち上がった。
「彰」
「彰様」
ぴたりと二人は動きを止める。
そして同時に彰に向き直っていた。
(やっぱり仲いいじゃないか…)
彰はどうでもいいやと思いつつ、今度は内心で呟いた。
「僕は静かに本読みたいの。分かる?」
首を傾げて問うと、二人はやはり同時に頷いた。
「うん」
「はい」
「よろしい。じゃあ、巴は静かにして鎌を振り回しちゃ駄目だからね。貢はここを片付けて、巴にお茶でも淹れてきて。はい、さっさと行く。さん、はい」
彰は淡々とそれだけ言うと、分かった?とまた首を傾げた。
巴と貢はこくこく頷く。
「承知いたしました、ご主人様」
「分かったよ、彰」
そして言われた通り、貢は掃除をするために箒を取りに部屋を出、巴はお行儀よく彰の向かいの椅子に座った。
「…怒らないのね」
再び椅子に座り読書を始めた彰を見つめ、巴は小さく言う。
「…巴は僕の双子の片割れだよ。怒らないよ。なんで怒るなんて思うの」
視線は本に落としたまま、彰は聞く。
「…ここへ来るの、彰だって困るでしょう」
「…分かってるなら、来なければいいのに」
何故かしゅんとなっている巴に、彰は困ったように少し笑う。
「だって、貢がいるんだもん」
「貢がいると、なんでここへ来る理由になるの」
「私は彰と一緒にいられないのに、あの人はいつも彰とべったり。とっても悔しいんだもん。私だって彰が大好きなのに」
巴は拗ねたように口を尖らせる。
「だから、私、あの人大嫌い」
「うん、知ってるよ」
そして、貢も君のことが大嫌いだよ、と彰は笑って言った。
「それも知ってる」
巴は子供のように頷く。
(違うよ)
彰はそれを見て、心の中で呟く。
(君は知らない)
君は知らない。
あの男が、君をどれだけ嫌いかということを。
貢は本来冷静で、ほとんど感情を表に表さない男だ。
まるで自分のように。
その男があれほどにまで感情をむき出しにするほど、彼女は彼に嫌われている。
(それはまるで)
それはまるで。
呪いたくなるほどに。
あの男は、君のことが嫌いだよ、巴。
(君はまだ、何も知らない)
【続く】
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深紅
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共感する言葉は「苦しい」「辛い」「切ない」。
好きな言葉は退廃と殺伐と絶叫と断末魔。
最萌は知盛、泰衡、ナーサティヤ(遙か)とe-zuka(GRANRODEO)と杉田智和(声優)
表向きより虚ろ気味な基本根暗の乙女ゲーマー。
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